異世界のアフレクションネクロマンサー330
「けれど…先生が造られた爆弾気球のお陰で、ドラゴンが人を恐れるようになったと話が流れた時に、母がカーテンを開けて、外の景色を見れるようになったと姉から手紙が来ました」
「……ちなみに、他の人が戦闘機に乗ってドラゴンを始末するというのはダメだよね?」
「それではダメです」
普段なら、私の言葉に頷いて話を聞いてくれる彼の首が、横に振られる。
「確かに、先生の言う通り、誰かがドラゴンを始末すれば、母は外に出られるようになるかもしれません……けれど、それは心の傷が癒えたと……心が解放されたと言えるのですか?」
「……難しい話だね」
私は、彼の母親に会った事が無い。
あった事が無いから、おいそれと気軽に癒えると、解放される等と言えない。
彼の母親の病状は分からないが、村では獣に、子供を食い殺されて発狂してしまった者がいた。
父親の方は、叫びながら一日中森の中を駆け巡って死んだ子供を探し、母親は、一日中子供の食器を洗っては片付けてを繰り返していた。
周りのみんなで、何とかケアしてあげる為に、子供を襲った獣を見付けて、腹から遺骨を取り返してあげたのだが、それからは二人して家の中で籠るようになり「ケタケタ」と子供と笑い話をするかのような、笑い声が聞こえて来たかと思った時には、忽然といなくなってしまっていた。
その時は、我々の出来る限りの事をしたと思っていたが、
「本当に母の心を救うには、自分がドラゴンを討って……自分も先生のように、ドラゴンスレイヤーにならなければならないのです」
あの時、本当にしないといけなかったのは、彼等を連れて、彼等と共に獣を殺し、彼等の手で腹から子供の遺骨を取り返させてあげなければならなかったのだろう。




