異世界のアフレクションネクロマンサー321
みんなが平和に、穏やかに暮らしている……とは言えない。
このバルコニーから街を見渡す分には、平和で穏やかな時間が流れているように思えてしまうが、既に戦いの牙は街の中にまで入り込んでいる。
出兵で亡くなった兵士の家族は、遺体どころか指先の骨すら帰らず、遺品一つ届かない事に悲嘆に暮れて、戦いの悲しみを嫌という程に味わっている。
「すぐにでも、何とかしなければ」
まだ、表面的には平和を保ってはいるが、これがいずれ、ドラゴンの侵攻によって表面化する事になるかもしれない。
街は瓦礫と化し、炎が立ち上る街の中で、死んだ人間がいたる所で転がる、国としての死。
再興する事も叶わず、そのまま滅んで、ドラゴンの巣になるしかない。
そんな事にさせない為にも、一刻も早く彼と会いたいという想いが募りつつも、
「…?あれは…何をしているのだ?さすがに、合同葬をするには早いぞ」
自分の中の最悪の結末と、現在の街並みを照らし合わせていたのだが、その現在の街並みの方で気になる光景があった。
王の目に留まったのは、普段なら人で溢れている大通りに国民が誰もおらず、代わりにでは無いが、多くの兵士達が、大通りを塞いでいる。
大通りを完全に塞ぐ時というのは色々とあるが、今の状況を考えれば、亡くなった兵士達の最期のはなむけの為の準備。
いくら手厚く葬れと言っても、さすがに国の存続の方が優先であり、合同葬を行うには時期が悪い。
一度引き下げようと思っって、将軍に引き下げるように指示を出そうとしたが、
「あれか?あれは、彼を向かい入れる為の準備だ」
「向かい入れる…?そうか、そうだな。あの大通りを通るとなると、時間が掛かるか……」
そう言われると、そうかとしか言えなかった。
確かに、あの人混みで溢れる大通りを、いきなり通るから道を空けろと言っても、人を掻き分けるのは大変だ。
素直に、裏道を通ってくれば良いかもしれないが、自分も早馬を送らせようとした位には、彼の到着を待ち望んでいるから、この少しやり過ぎな事も何となくで受け入れられる。




