異世界のアフレクションネクロマンサー320
しかし、そんな事を悲観する事は無い。
一番あってはならないのは、彼がここに来てくれない事であり、彼がここに来てくれるというのなら、ここで待てば良いだけの話。
「それでいつ頃着く?場合によっては、こちらから早馬を差し向けて」
「いえ、彼が来るの見て頂きたいのです。バルコニーへ行きましょう」
「彼が来るのを…?バルコニーに行けば良いのだな。他の者達はここで待っていてくれ」
そう言うと王は、玉座から立ち上がり、将軍だけを連れて王の間から離れて、二人は広く長い廊下に出る。
そこからバルコニーに向かおうと歩むと、
「すまないが、君達はここで警備を続けてくれ。王の護衛は私だけで十分だ」
護衛の兵士が後ろから付いて来ようとしたので、それを制止して、二人っきりになる。
「頼まれたのか?」
「分かるのか?」
「じゃなければ、ここまで秘密にはしないだろ」
二人は肩を並べるように歩幅を合わせて、バルコニーに向かいながら会話をする。
「あぁ、焦らしている訳じゃなくてな。彼から、直接見て貰いたいと言われてな……だが、確かにあの凄さは、今ここで言葉にして説明すべきものでは無いと思う」
将軍が、ここまで頑なに言葉にしないのは中々無い。
常に実質剛健、何かあればすぐにでも報告を上げ、すぐにでも行動し、仕事という面では決して遊んだりせず、含みを持たせる行いを嫌う将軍が、今回ばかりはその理念を曲げる。
彼からのお願いというものもあるかもしれないが、本人の口からも「説明すべきでは無い」というお墨付き。
「こんな事があるのだな」
「何がだ?」
「ドラゴンに襲われるという恐怖より、期待の方で胸が高鳴っている」
そんな、滅多に無い事に、胸が期待に膨らむ。
今まで、ドラゴンは人間を捕食対象として襲って来る事はあったが、今回のような人間を始末するような事は無かった。
それは今まで以上に苛烈な戦いと、多くの死人、多くの村や町が消滅し、都すらも危機に陥る事を示唆しているはずなのに、絶望を一切覚えない。
「あぁ、その胸の高鳴りを裏切らない物だ」
「そんなにか…すぐにでも見たいものだ」
バルコニーのある部屋に辿り着いて中に入り、そのままバルコニーへと続く戸を開けると、
「まだ、我々の国は無事なのだな」
国民が暮らす街が、広がっているのであった




