異世界のアフレクションネクロマンサー318
その男性は、今でこそ学者として受け入れられているが、あの時の、ただの村人にも関わらず、いきなり城の中に連れ込まれ、国王の前に通されたというのに、
「いかがなさいましたか?」
恐縮して怯える所か、迷子の子供をあやすかのような優しい口調に、こちらが震えた。
王を敬えとか、かしずけと言っているのではないが、
「王の御前であるぞ!!」
普通の者なら、何事かと身構えて、声すら発する事も出来ずに、自ら膝を絨毯の上に付ける。
「決して、無礼を働くつもりはありません。私のような片田舎の者を、お呼びになるというのは、何か急ぎの用があるのかと思いまして」
顔色1つ変えずに平然とする彼に、側近は叱る声を浴びせるが、それでも彼の優しい佇まいは崩れず、
「良い、呼んだのは私の方なのだ。側近が失礼をした」
側近が威圧するのを止めさせて、彼に謝罪をする。
彼の優しい雰囲気が崩れないのは、彼が紳士的だからというよりは、確固たる芯の強があるからだろう。
優しさという皮を被った中に見える、屈する事の無い意志の強さを持った人物、そんな人物が村の片隅にいたのかと、震えて感動したのは、今でも忘れられない。
それから、彼にはドラゴンを、どうやって狩っているのかと聞いたが、
「いえ、それは違います。私の住んでいる地域で、大規模なドラゴン同士の争いがあり、負けたドラゴンの遺体を、手にしたに過ぎません」
それは間違いだという。
「ご期待に沿えず申し訳ございません……私はこれで、帰らせていただければと」
「ふむ…この者の言う通り、小さな片田舎の村が、ドラゴンを狩るのは無理でしょう。彼を帰らせてあげましょう」
彼の言う通り、普通に考えればその解答で十分であり、側近の言う通り、これ以上、彼をここに留める理由は無いのだが、
「いや……待ちなさい。せっかく、ここまで来たのだから、しばらく滞在すると良い」
「な…何をおっしゃっているのですか!?」
「良いではないか。私の我儘で、ここまでの長い道中を来させておいて、用が無くなればすぐに帰れというのは、あまりにも心が無い。部屋を用意してくれ」
自分の心はそれとは裏腹に、彼をここに残したいと思っていた。




