異世界のアフレクションネクロマンサー286
一度も空を飛んだことの無い私をパイロットだと認め、早く降りろと怒る。
『ヒュヒュウ』と咳き込む音に、私は慌ててコクピットから降りるが、飛行機は機嫌を直さずに『ヒュヒュウ』とエンジンを鳴らす。
「先生……」
このままでは、この飛行機は空を飛べなくなるのでは無く、飛ばなくなってしまう。
身体が衰えて飛べなくなってしまうのではなく、自らの意志で飛ぶ事を拒否して飛ばなくなってしまう。
自分がパイロットとして相応しいかどうかのためだけに、この飛行機の機嫌を損ねてしまうというのは、あまりにも損失の方が大きい。
私は、赤ちゃんをぐずらせてしまった父親のように、あたふたと先生に助けを求めると、
『…………』
先生は、飛行機のノーズ部分を優しく撫でながら、何か話し掛けると、
『ヒュヒュゥヒュゥヒューーーー』
飛行機は途端に機嫌を直して、咳き込むのを止める。
本当にそれだけだった。
何かを調整したとかではない、触れて話し掛けただけ。
この飛行機は生きている。
ただの物じゃない…意思があって……応えてくれて……
『君も、あの飛行機とパートナーになるんだ』
「…………」
それは何とも言い難い感情。
数分前までは、ただの先生から色んな事を教えて貰うだけの生徒で、付き人だったのに、今は先生の横に並ぶパイロット。
演劇の横幕にいたのに、突然ステージの真ん中に立って、主役を演じるような抜擢。
一気に、物語の主軸になってしまい、どうしたら良いのか戸惑ってしまうが、
『任せて、明日は私も一緒なのだから』
舞台の上で主役を演じる先生が、リードを取ってくれる。




