異世界のアフレクションネクロマンサー279
「なんて、美しい声なんだ……」
エンジンから聞こえる美しい産声。
それは私にとっては、結婚式で教会から祝福の鐘が鳴り響くように壮大であり、
「後は…体を与えれば……」
「早く載せましょう!!」
工房の人達にとっては、力強く脈動する産声は、この心臓に見合う体が欲しいと、エサをねだる小鳥のように聞こえているらしい。
「そうですよね…載せても良いですよね……先生?」
感じ方は人それぞれかもしれないが、自分だってこのエンジンが飛行機という楽器に載せられたら、どれだけ美しく鳴り響くのか聞きたくて堪らない。
みんなの期待の視線を一身に受けた先生は、脈動するエンジンに近付き、減圧弁を空けると、
『カルンカルンカルンカルンカルカルカルカルカルカルカル…………』
エンジンの脈動を止めてしまう。
何一つ問題無く動いていたエンジンを止めた事に、盛り上がっていた雰囲気は冷めきり、このエンジンの何がいけなかったのか、何を言うのか一気に緊張が走るが、
『この世界の人々に祝福を……』
先生も、エンジンを愛おしく見つめ、エンジンに何かを語り掛けてから飛行機の方を指を差し、首を大きく頷かれる。
「先生……」
神父が、生まれたばかりの赤ちゃんを祝福するように、先生が、この世に生を受けたエンジンを祝福したという事は、
「お許しを出して下さったぞ!!」
「すぐに準備だ!!」
このエンジンは、認められたのだ。
この世に生を受ける事を許したエンジンを、一度眠りに付かせたのは、体を与える為であった。




