黒い海1
人は頭の中の記憶を夢として整理すると言われているが、霊能者である礼人の場合、記憶の整理を行う際に過去の出来事が何一つ違わずに呼び起こされてしまう時がある。
忘れてはいけない出来事ではあるが、
「なんで…何回も見るんだろう……」
記憶を夢として整理するというのならば、あの時の出来事をどう整理したいというのだろうか。
夢の中での最初はみんなで遊びながら…じいちゃんとアニーさんと年越しを楽しみ…そして死ぬ……
忘れてはいけない出来事ではあるが、何度も繰り返し見たいものでは無い。
休んだのに休んだとは言えない眠りに、もう一眠りしてしまおうかと目を閉じようとした時だった。
「誰か手が空いてる方はいませんか!?」
耳に刺していたインカムから声が聞こえる。
「丸中区鹿角にて妖力の異常を検知しています!!このままでは妖怪が生まれてしまいます!!至急……」
一人の女性の声がスマホのヘッドセットを通して聞こえてくると礼人は、ベンチから体を離したかと思うとその場から走り出し、
「こちら二月、もう自分がその現場に向かっています!!」
「礼人!?あなたはもう帰りなさいって!?」
「帰ってる途中だったんです!!」
熱気を伴った日の差す世界を行く。
「今は猫の手だって借りたいぐらいに忙しいじゃないですか!?自分だけがゆっくりなんて出来ないですよ!!」
「やっぱり、あなたうろついていたのね!?そういう時はこっちに連絡を回しなさいってあれほど言ってるでしょ!?」
「話は後で聞きます!!」
口に入り込む空気は熱く、走るだけで体中から汗が吹き出る夢の中の世界とは真逆の世界。
熱い空気を噛みながら日が照り返す住宅街を駆け抜けると汗が吹き出し、汗を吸った服が肌に張り付いて気持ち悪く感じる。




