異世界のアフレクションネクロマンサー276
『思った事は無いかい?遠くへ行きたいと』
「それは…あります。街へ住みたいと」
遠くにある街、そこはどこにあるのか知っているが、自分のような村生まれの者がおいそれと近付ける場所では……
『もっと遠く…自分の国の中心部じゃなくて、隣の国……もっともっと遠くのまだ見ぬ地へ。鳥のように翼を羽ばたかせて、自分の思うがままに飛んで、自分のまだ見ぬ世界へと行ってみたいと』
「まだ見ぬ世界……?」
漠然としている…全くもって具体的じゃない……ただ、見ぬ世界と言われても……
「先生のような方が、住んでいる国……ですか?」
想像出来るのは、まだ見ぬ世界で、先生の方のような優しい知識人方達が談笑している姿、自分達の夢をどうやって具現化するか……そんな夢のような平和な世界……
心がまた跳ねた。
先生が知っている事、それを垣間見ると、自分まで未来を見ているかのようで心が躍る。
『私は、小さい頃から思っていたんだ。この世界は、みんなが言うように色んな国が本本当にあるのかと。本当は、小さな瓶の中住んでいて、外には世界何て無いんじゃないなのかって』
「…………」
言葉が出ない。
私が小さい頃何て、街じゃなくても良いから、隣の町で良いから住みたいという手狭な夢しか見ていなかったのに、先生は……
『だから、空を求めたんだ。遠くに行きたいという夢で造ってくれた飛行機なら、自分の思っている事が間違っていると。世界は私が思っている以上に広いのだと教えてくれると信じたんだ』
「先生は…先生は……遠くを見ていられるのですね」
遠くを見ている……隣の町とかではなく、自分の住んでいる国すらも近い所と言って、もっと羽ばたきたいと。
『大丈夫。君は自分が小さい存在だと思っているかもしれないが、それは手探りで夢を掴もうとしている証拠。飛行機を君に教えたいと思ったのは、夢を掴もうとしていたからだよ』
先生は、私を慰めてくれる。
私はきっと悲しい表情をしていたのだろう、先生と私とのあまりにもスケールの違いに落胆してしまった私を励ましてくれる。
『飛行機もまた使い方を誤れば、この世界を滅ぼしてしまうかもしれない力を持っている。だけど夢から生まれ、夢を掴もうとしている君なら飛行機の素晴らしさを知って、それを正しく広めてくれると信じている』
「はい、先生」
それが、先生が頑なに、技術を秘匿したがっていた理由。
この世界の秒針を少しだけ進め、自分のいた世界よりも素晴らしい世界であって欲しいと願っているから。
いきなりでは無く、ゆっくりと人々に技術が知れ渡れば、この世界が壊れてしまう事は無いだろうと考えているから。
だから、巨万の富を地位を得られる程の知識を持っていても、
「これだけの物。王に献上すればすぐにでも、お抱え技師になれるのに」
「先生は、特定の人だけじゃなくて、みんなに幸せになって欲しいんですよ」
決して、神になろうとしない。




