異世界のアフレクションネクロマンサー267
『気球を見た事があるかい?』
「気球…ですか?」
聞いた事の無い言葉に首を傾げると、先生はおもむろに一枚の紙とランプを取り出す。
紙をクシャクシャにして籠のように形作ってから、ランプに火を着けて上にかざすと、
「紙が飛んだ!?」
クシャクシャの紙が『ふわっ』と宙を飛び、ランプから離れるとそのまま床に落ちた。
空を飛んだ紙を床から拾い上げ、そこに何の仕掛けがあるのかと、マジマジと覗き込むように仕掛けを調べるが、先生が自分の肩に手を掛けて来て、ランプの方を指差す。
それは、自分と同じようにやってごらんという事であり、そうすれば謎が解決すると言っている。
先生の指し示された通りに、紙をランプの所に持って行き、そこで同じように紙をかざすと、
「これは!?」
ランプの熱を逃がす排熱口、そこは冬場で手を暖める時にかざす程度の部分であったが、こうして紙をかざすと、熱以外の物も感じる。
紙を通して感じる押して来る感覚。
風に吹かれているような感覚。
それを、ランプと紙だけで感じている。
今まで身近にあり、いつでも知ることが出来たのに、知る事が出来なかった。
(先生は、本当に凄い方だ)
先生と一緒にいられる時間は奇想天外な事ばかり。
子供の頃は王都じゃなくても良いから街へ、それもダメなら町に住みたいと思って、月に数回の宣教師の勉強を習ったが、それまでだった。
宣教師が黒板に書いてくれた文字を覚え、教会にあるボロボロの聖書を解説してくれたが、何回も読むうちに聖書も、いずれは文字を覚える為の道具となり、それ以上の物を手にする事は無い。
村で採取した物等を町に届け、過剰分を売りに行く時、いつもボロボロな中古の本に目を奪われた。
街から流れて来た古本。
そこには、聖書とは違う新たな知識が書かれていたのだろうが、古本とは言え高級品であり、立ち読みなど到底させて貰えない。
いつもあそこには何が書かれているのか、どんな知らない世界があるのかと、手が届かないのに、思いを馳せると悲しい気持ちになっていたが、
「先生、見てて下さい」
先生と同じように紙から手を離すと、空を飛ぶ。




