異世界のアフレクションネクロマンサー263
それは書物や、紙切れに書かれた文字ではない。
まるでコップの中の水に、浮かべたかのように鮮やかに浮かぶ文字、
「これは…魔法?」
不思議な文字盤に目を奪われて、これが何なのかと興味を引かれるが、
『…………』
「あっ…そうですよね。読んで欲しいのですよね」
彼がわざわざ、この不思議な文字盤を見せてくれたのは自慢をする為ではない、自分とコミュニケーションを取りたいから、文字盤に書かれた文字を見せてくれている訳で、
「ええっと…これは、お互いの言葉を訳してくれる道具……?そんな物があるのですか!?」
何とも素晴らしい文字盤なのだろうか。
自分の国は、国が亡ぶほどの敗戦した事が無いから言語で困る事はなかった。
それがどういう事かというと、国同士の戦争で負けた敗戦国は、戦勝国に吸収されることになる。
すると、敗戦した国の村は、戦勝国の所有物になり、戦勝国に合わせた生活を余儀なくされるのだが、その中でも一番困るのが言葉である。
想像しても欲しい、戦争に負けた途端に、普段使っていた言葉が身内にしか使え無くなる恐怖。
知らない言葉を使う、自分達よりも身分の高い存在がいきなり生まれる恐怖。
新たな朝日を迎えた時には、自分達は言葉の喋れない奴隷になっている恐怖。
勉学が学べる場所を用意されている街なら、言葉の勉強もすぐにされて何とかなるかもしれないが、ただただ街を潤す為の機関でしかない村には、学校等という物は用意されていない。
言葉の理解出来無い奴隷は、家畜のように扱われても文字通り文句の一つも言えない。
文句も、訴えも、悲痛な叫びも家畜の鳴き声。
弱者が、家畜として奴隷として扱われたくなければ、言葉が分かり、相手に自分の意思を伝える事が出来るというのが絶対条件。
(……良かった文字を読めて)
村の近くにある教会に、数週間に一度、宣教師が来てくれて、文字を学びたい者には手取り足取り教えてくれたから、彼が差し出してくれている文字盤を読んで、意思疎通が出来る。




