異世界のアフレクションネクロマンサー219
未熟な霊能者の卵である栄華に出来る事なら、周りのみんなが先にどうにかしている。
栄華のするべき事は、死なないで生きて帰る事なのに、初めての緊迫した状況で自分にも出来る事はと考えてしまう。
一人だけ先に逃げるという行為に疑念が生じる。
微力な自分の霊力でも、少しの足しになれれるんじゃないかと、自分だって霊能者の端くれだという想いが込み上げて、足取りが少しずつ重くなり、
「栄華上だ!!」
「えっ……」
集中力が散漫になっていたせいで、自分の真上を通過する鳥影に気付けなかった。
鳥影は、真下にいる栄華を気にせずに翼を羽ばたかせて、黒いモノを飛沫にして地上に降り注ぐ。
それは決して、相手を痛み苦しめる為の攻撃では無いのだが、
「経典だ!!」
「はっ…はい!!」
栄華にとっては脅威であった。
後ろのみんなを気に留めずに走っていたら、空を飛ぶ鳥影に追い付かれる事はなかったが、歩みを緩めたばかりに、鳥影の影の中に入ってしまった。
ポタポタと、雨が降り始めたかのように自分の周囲が黒い雨で濡れ始めて、
「霊写機!!」
自分だけ逃げて良いのかと、みんなの助力になりたいという愚かな考えは一瞬で消えて、自分に与えられている重大な任務を思い出し、その場で足を止めて霊写機を守る為に、自分の周囲に経典を展開するが、
「そんなの捨てて走って逃げろ!!」
経典を使えと言われたのは、そういう意味では無かった。
霊写機の中に収められた映像は貴重な物であり、撤退するなら持って帰らなければ、何の為に戦場に行って来たのかと叱責されてしまうが、栄華の命と比べられない。
「走れ!!」
「ですが……」
霊写機と栄華の命と比べられない……周りのみんなはそう考えていても、本人はそうは思えない。
霊写機を持って逃げる、ただそれだけの任務だったのに、それだけを何が何でも完遂しなければならなかったのに、余計な事を考えて足手まといになり、挙句の果てには霊写機を捨てるという失態まで犯そうとしている。
決して、名誉挽回では無いが、自分の不始末を自分で何とかしようとしたが、
『じゅっ…じゅゅっ』
その何とかしようとしたせいで、黒い雨に飲み込まれて、完全に逃げ出す事が出来なくなってしまう。




