異世界のアフレクションネクロマンサー218
空へと飛び上がった鳥影は、意図してなのか偶然なのか、大きく翼を羽ばたかせたその時、ボタボタと黒い液体を垂れ流す。
触れた事の無いモノだが、それでも本能がそれに触れてはいけないと叫び、それがそのまま叫び声になる。
そして、その叫び声に瞬時に反応した霊能者達は、
「一時撤退!!」
この場から立ち去る事を選んだ。
霊能者達の第七勘が叫ぶ、これ以上ここにいてはいけないと。
「栄華!!撮影はもう良い走れ!!」
「はい!!」
栄華は命じられるままに、後ろを振り向いて走り出す。
常日頃から言われている通りに逃げ出す。
栄華が持っている霊写機の記録は次の者達に繋がる、何かあった時は我々を助けようとせずに、霊写機を持って必ず帰還しろと。
それは優しさであった。
資料を持って帰るという重大な任務だが、前線に出させない、真っ先に逃げ出してもそれは任務だから仕方無い、霊力が未熟な栄華には一切の責任、負い目を追わせないようにする為の口実。
栄華は命令通りに真っ先に車へと向かい、
「近付けさせるな!!逃げるだけで良いんだ!!」
霊能者達は経典で結界を張り、森羅万象の影から逃げる為の時間を作るのだが、影は決して、霊能者達を襲おうとしているのではない、身にへばりつく苦しみから逃れたくて徘徊しているだけなのだが、その徘徊しているのが追い掛けて来ているように見えて結界を張ってしまう。
影が徘徊するのを邪魔する事によって、影は様々な姿になっていく。
犬の影が生まれ、猫の影が、ヤモリの影、蟻の影が……様々な影が生まれて、それらが生存していた頃の各々の姿、力を利用してで結界から逃げ回ろうとする。
「来させるな!!」
どちらも逃げたいだけなのに、理解し合えないから物事が悪い方に進んで行く。
背中を向けて真っ先に逃げ出している栄華にも、背中越しに起きている事が手に取るように分かる。
自分達が逃げる為に、みんなが命懸けになっている事を。
命懸けになっている気迫が、背中越しに感じられて、それが心の中にまだ染み渡り、
(本当に…自分だけ逃げて良いのか?)
恐ろしい事を考えてしまう。




