異世界のアフレクションネクロマンサー171
あれほど苦しそうにお酒を飲んでいたのに、急に飲めるようになるというのは無くは無いと言えば、それで済ます事も出来たが、
「お加減が悪いのですか?」
「そんな事は無いですよ…戦争が近いから少しナーバスになってるみたいです」
急に我儘を言い始めるという些細な事が、二つ重なれば違和感にもなる。
一つだけなら、気に留める必要も無い小さな違和感だが、アルツハイマー病のように小さな違和感が重なっていく度に、日常がボロボロと発泡スチロールのように崩れ、日常という足場が崩れて崩落すれば、多くのものを忘れてしまう大病になってしまう。
(賽は投げられてる…悩んでも仕方無いさ……)
何とも投げやりな考え方だが、実際、この状況では治療も何も無い。
これ以上の異変を侵攻させない為の薬も無ければ、療養を取っている時間も無い。
「……時間があると深刻に考えてしまう癖があるので、考え事をしないように鍛冶場に行きたいです」
「分かりました……鍛冶場へ行きましょう」
リーフも礼人の心境を察して、これ以上の事を言わない。
アフレクションネクロマンサー様の身に起きている異変に効く薬も無ければ、療養をして貰っている時間も無いのに、自分達にはアフレクションネクロマンサー様にいて貰わなければ生きていけない。
「無い」人から、貰わなければならない。
その「無い」人が、せめて考える時間を、苦しい思いをする時間を持ちたくないというのなら、その願いを叶えてあげるのが、せめてもの治療。
リーフは礼人の願い通りに鍛冶場の方へと歩みを戻す。
「それじゃあ、案内をお願いします」
礼人もリーフの後に続いて鍛冶場方へと足を向けて、鍛冶場の方に向かいながら、
(本当に…時間が無いんだな……)
少しの間にも考え事を始めてしまう。
自分の体に起きている異変の事を考え、そこからあれこれと悩みの種を育てようとしたが、
「熱っ!?」
鼻の中を突然通った熱気に、無意識の声が出て思考が止まった。




