異世界のアフレクションネクロマンサー154
「話を……?そうですよね。何も話は進んでいないですもんね」
眠りこけて、一瞬で朝が来たかのように思えるが、実際は夜という時間を丸々睡眠に使ってしまって、何も話し合えていない。
「椅子をお借りします」
このまま、何の意味も無く時間を過ごすのは良くないと、側の椅子に座って、気付いていない何かを話し合おうとしたが、
「そちらにじゃなくて、こちらにどうぞ」
リーフはベッドの上を擦って、自分の側に来て欲しいと言ってくる。
「それは……」
昨日の夜は、塞ぎ込んでしまったリーフを慰めるという意味があったから側に座ったが、今の布団に隠れて塞ぎ込んでいないリーフの側に座るのは、気恥ずかしい気がして遠慮しようとしたが、
「側で話しましょ。離れてたら、話したい事も話せません」
リーフにとっては、すぐそこの椅子からでも、話をするのは遠いと言って、許してくれない。
「……話をする為にですもんね」
彼女の屈託の無い笑顔に、気恥ずかしく思う事すら邪念のある行為だと考え、やましい思いは無いのだと「話をする為」だと自分に念押しをしてからベッドの方に戻って腰を下ろす。
これで、リーフの望む形になったので、話し合いを始めようと思ったが、
「アフレクションネクロマンサー様は、いつもお疲れなのですね」
「えっ?」
「眠られている時、息は大きくされてるのに体は小さくされて、必死に眠られていました」
「……そうですね。最後にゆっくりと寝たのは、ずっと昔だった気がします」
リーフが持ち出して来たのは「話し合い」ではなく「お話」で、「話し合い」をするつもりだったので多少面を食らいつつも、最後に自分がゆっくりと寝られたのが、いつだったのか思い出してみる。
礼人が、ゆっくりと眠れていないのは何も異世界に来てからだけではない。
あの雪山の一件以来、礼人はアフレクションネクロマンサーの影と、鉄騎兵への復讐心で気が休まる事は無かった。
常に強くなりたいと願い、命の危機が迫る場所へと赴き……まるで、命を削るような生き方をして来て……
(そう考えると……ろくでもない生き方をしているんだな)
ならば、あの雪山の一件以来よりも前だと、じいちゃんとアニーさん達と過ごした数年間は、穏やかな時を過ごしたが、そこよりも前にも悲惨な人生があった。
そう考えれば、礼人がまともな眠りに付けたのと、付けなかったのは半々位なのかもしれない。




