異世界のアフレクションネクロマンサー148
掛けられた謝罪の言葉には憎しみも無ければ、怒りも無いが、
(ごめん…ね……)
寂しそうな想いがあった。
大人の霊は、誰かに自分を見付けて欲しくて彷徨っていたのではなく、確固たる目的があったから成仏出来ずに現世に留まっていたのだが、偶々(たまたま)、自分を見ている子供がいる事に気付いて素直に嬉しくなってしまった。
久しぶりに誰かに認識して貰えるというのは嬉しいもので、周りに人がいるにも関わらず相手をして貰えずに一人ぼっちで……
そんな時に、自分に気付いている人に出会ってしまえば、誰かと一緒にいて、会話をするという喜びを思い出してしまうのは必然で、ついつい子供の方へと近寄ってしまったが、その結果は無関係な子供を怯えさせる事になってしまう。
(……ありがとう)
一方的に話し掛けただけであったが、それでも自分という存在を認識してくれただけでも、一人ぼっちであった者には十分過ぎる出来事であり、これ以上子供を怖がらせるつもりの無い霊は、大人しく引き下がって行く。
「はっ…はぁ……」
礼人の側から離れていく大人の霊。
捻じり曲がっていた足が伸びていき、名残惜しそうにズルズルと足を引きずって去って行くのを感じると、乱れていた息が元に戻っていく。
大人の霊は、自分と少しだけ関わろうとしただけで、何か悪さをするつもり等毛頭無かった。
ただの気苦労で、取り越し苦労で……二重の苦労が合わさって、礼人の苦しみは単なる……
「ひぎっ…!?」
過剰反応で終わらなかった。
礼人の視界が真っ赤に染まって、怒りと憎しみが渦巻いて周囲が穢れる。
さっきまでとは違う、一瞬で変わってしまた世界に、
(これが…怖かったんだ……)
何を恐れていたのかハッキリと理解し、自分があの霊を怖がっていたのは間違っていなかったのが分かる。
あの大人の霊は、礼人に対して悪さをせずに人畜無害のように去って行ったが、それならば最初から「浮遊霊」として怖がったりしなかったはず。
それなのに礼人が怖がったのは、
(霊の恨んでいる人……)
霊の中に渦巻く怒りを感じ取っていたからだ。
礼人から離れた霊が向かった先には、家から出て来て、これから会社に向かうであろう一人の男性がいるのだが、その男性は間違いなく生者なのに、体中が赤く染まっている。




