異世界のアフレクションネクロマンサー147
小さな体から小さく漏れた声は、聞き耳を立てなければ聞こえない程に微かな声であったが、
(…………)
目の前の子供は、自分に気付いているにも関わらず無視を決め込んでいる……決して気付いていないのではなく、自分と接したくないから無視をしていると理解して、ゆらゆらと揺らしていた体の動きを止めて、静かにする。
「hじゃっ…かっい……」
礼人は、どこにも行かずに自分の事を見続ける霊が怖くて息がおかしくなるる。
霊力に目覚めたばかりの礼人に、霊をやり過ごすというのは無茶な注文で、自分自身でも我慢をして息を殺そうとしているのか、我慢出来ずに息を乱しているのか分からなくなっていた。
目の前に感じる存在、それがこの世の存在じゃないのを感じるが、それが何かの解決になるかというと何にもならない。
ただただ、圧倒的な存在に気圧されて怯える事しか出来ず、怖いモノを見ないようにするという最後の抵抗で何とかやり過ごそうとするが、
『ずりゅ…ずりゅ……』
大人の霊は、子供の礼人に体の高さに合わせようと、足を捻じ曲げて屈んでくる。
鉄の棒が捻じれて、バネになっていくように霊の足がグニャグニャと折り曲がって小さくなってくる。
霊が自分に迫って来ているのに、足は腫れ上がって動かず、走って逃げる事も、しゃがんで目線を合わせないようにする事すら叶わない。
何も出来ずに下を向いて、大人の霊が何かの間違いで立ち去ってくれるのを祈ったが、
(もう…むり……)
霊の足が折れ曲がるのが止まったのを見て、その祈りが神に届く事は無く、顔を上げれば霊の顔と見合わせてしまう所まで来たのだと悟ってしまう。
抵抗すら出来ず、霊の思うままに弄ばれて殺される。
強き者が弱き者を蹂躙する権利を行使して、殺戮が行われる。
殺される思ったその時に、死ぬ覚悟が出来ていたのか分からないが、一方的に叩き付けられる暴力を受け入れざるを得ない状況に諦めて、せめて苦しまずに死にたいと願うと、
(ごめ…んね……)
霊からハッキリと掛けられた声は殺戮の宣言では無く、礼人を怖がらせてしまった事への謝罪の言葉であった。




