異世界のアフレクションネクロマンサー143
失念してしまっていた。
ベットの上で目を覚ましてからは、自分の状況を気にしてばかりで、その後も休む事無く本国へと連れて行かれてしまったが故に、あの時の……出来損ないの人魚との戦いで、どうやって生き残ったのかを考えもしなかった。
「入るね」
ドアの先にいるリーフに声を掛けると、返事を待つ事なく入る。
彼女の返事を待っても、きっと返って来ない……そんな気がしたから返事を待たない。
静かに足を踏み入れたリーフの部屋は、質素な物であった。
可愛らしい人形がある訳でも無く、本棚がある訳でも無く、あるのは自分の部屋と同じように机と、膨らんだ掛け布団と……
「これは……」
目に付いたのは、いくつかの人物画。
数ある絵の中でも、特に少女を中心に、母親と父親が側に立っている絵が目に付く。
勿体ぶる必要もない、まだ小さい頃のリーフと若かりし頃のフレンさん……そして、名前の知らない母親。
(幸せなのかな……)
質素な部屋がリーフを取り巻く環境を例えているというのなら、何も無い部屋は、本国に圧政を強いられて、裕福な生活は出来無い証明で、壁に飾られている絵は心の拠り所を示している。
小さい頃のリーフが描かれている絵の中にいる、名前の知らない母親を見て、
(ばあちゃん…ありがとう……)
心の中で囚われた時に見た老婆が、ばあちゃんだったんだと分かった。
「素晴らしい絵ですね」
「…………」
子供の側で、微笑む優しい両親を描いた絵。
高名な方が描いたのか、無名な人が描いたのか分からなかったが、優しかったばあちゃんを思い出すには、十分過ぎる代物。
「側に座りますね」
「…………」
まったく返事を返さないリーフではあるが、それは否定もされていないという事にして、掛け布団が膨らむベットの隅に座る。
「ありがとうございます……出来損ないの人魚に囚われていた時に助けてくれたのは、リーフさんだったんですね」
あの時、ばあちゃんの残り香は自分を助けようと心を悩ませていた。




