異世界のアフレクションネクロマンサー134
立ち上がった二人も、食堂を後にしようとしているのだが、
「みんなを講堂に集めるが、君も来るだろ?」
「これからですか?」
数日以内には、この街から出て戦場に行かなければならないのは分かっているが、何もこんな時間に……
「時間が無いからさ。戦争の準備だけじゃなく「行って来ます」の時間も確保しなければならない。その時間は早い方が良い」
「そう…ですよね」
礼人も遅ればせながら、席から腰を上げると二人の後を付いて行くが、
(そんな事も気付けないなんて……)
「行って来ます」を言う時間。
自分とは違って、みんなには家族がいるのだから、その時間を少しでも確保し、少しでも大切に出来るように配慮するのなら、早めに伝えた方が良いに決まっている。
(そうだよな…自分は、違うもんな……)
「行って来ます」を言う相手がいない礼人。
この異世界に来る時に、元の世界に後ろ髪を引かれる想いをしなかったのは、じいちゃんとアニーさんが亡くなった事で、元の世界に対する想いが薄れてしまったのも事実だが、自分の住む世界の人達を守りたいという想いが強く、未練というよりは立ち向かう気持ちの方が強かった。
もう、さよならの「行って来ます」を言って旅立った礼人は、故郷の人々と顔を合わす事の出来無い旅人。
(……後で、遺書でも書くか)
だが、これから少しだけ時間が用意されるなら、風の便りに乗って、元の世界に届く事があるのか分からないが、友人にや仲間達に宛てたい手紙もある。
(色々と、書かないといけないな)
この異世界の置かれている状況、自分がアフレクションネクロマンサー様として何を求められたのか、自分の命だけで決着が付かなかったら、みんなには……
『カーン、カーン、カーン』
「鐘の音……」
「この鐘の音が、講堂に集まれという合図だ」
ビレーが打ちにいった鐘の音が響く。
街中に聞こえるように響く音は少し離れて聞こえるが、それでもしっかりと耳に響いて、体が共鳴して震えた。




