異世界のアフレクションネクロマンサー106
自分が特別な存在だと思うのは、決して傲慢では無い。
礼人は間違い無く人智の存在を越え、神の遣いのマネ事をするモノを葬るだけの力がある。
礼人が破壊を望み、怒り狂えば、それは人智を越えた災害となり、神の遣いとしての裁きとなる。
あの時、ニードゥスが礼人を怒らせるようなマネをすれば、フレンが守ろうとしようが、リーフがアフレクションネクロマンサーの力を使おうが意に介する事無く、眠気を覚ますあくびをするかのように、造作も無く殺害出来たが、そんな事をしなかったのは、そんな事をする必要も無かったのは当たり前の話だが、
(何をすれば…この世界は救われるんだ)
この世界を救う為に必要なのは、何かを葬る事では無い。
(よりによって、何でこの世界なんだ)
他の異世界なら……魔王がいて人々を苦しめるという絶対的な悪がいて、魔王を討てば全てが解決する異世界なら、礼人は瞬く間に、その異世界を救ってみせる。
そして、救った異世界で人々の称賛の声を浴びながら、のんびりと元の世界に帰る方法を探すなり、永住して英雄として崇め奉られながら、自由奔放に生きられたのに……
「御迎えの籠が参りました」
自分が与えられたと力と、自分が立ち向かう運命が噛み合っていない事が辛くて堪らない。
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「少しの時間で良いんだ。声を掛けるまで、ゆっくりで進んでくれないか。混み合った話をしたい」
「かしこまりました。フレン様」
塔から離れた所で、フレンは籠運びの御頭に声を掛けると、籠の速度が落ちて、ガラガラと大地を駆けていた籠が、カラカラと小さな音へと変わる。
帰るまでの時も、行く時と一緒で立ち止まったりすれば反逆罪に問われる可能性があるが、それでも行く時程よりかは、帰る時には時間的猶予が与えられる。
オークの体力も無尽蔵では無いという事に対しての配慮と、本国から離れるから、多少は甘くしてくれているのかもしれないが、それでも走り続けなければならない。
「それで、君にとって本国はどうだい?」
カラカラ、カラカラと聞こえる小さな音に紛れるようにフレンは、礼人に話を聞く。
本国に行く前にフレンが言った「どの位の差別を受けているのかを感じて欲しいんだ」というのは、ニードゥス様を疑っていたからでは無い。
ニードゥス様が、自分達を想ってくれているのをフレンは心の底から信じているが「本国」という存在はニードゥス様とイコールではないのが現実なのだ。




