異世界のアフレクションネクロマンサー85
「君の胸に、このペンダントを返す…それなら約束出来る……絶対に、何があってもだ……それじゃダメなのかい?」
罵倒してくれるなら有難い。
敵を檻の中に閉じ込めて、自分は安全に処刑する……その卑劣さを罵るのは、殺される者の当然の権利であり、その罵声を受けるのは当たり前の事だと罵声の雨を全身に浴びるが、
「それじゃ、ダメなんです」
死を前にしながらでも、微笑む彼の言葉は剣となって胸を突き刺す。
「分かっているとは思うが、私が君の友達に会う確率は、流れる川の中から一粒の砂を見つけ出す程に、途方も無いことで……」
「さっきの水…あなたがその気になれば、泥水に……いや、あなたがそれを許していないんでしょ?」
そうだ、周りの者はこれから死んでいくリザードマンに一々水なんて用意する必要なんてないと言い、用意するなら我々に立て付いた愚かさを理解させるために、泥水でもすすらせれば良いと言う。
最初の頃の自分は、彼等と同じように……さすがに泥水をすすらせるというのは行き過ぎだと思い、何も施しをせずに淡々と処刑をしていたが、
「あなたの目には優しさがあって…心の中に哀しみがある……」
処刑をする為に、気を失っていた一人のリザードマンを起こす為に、気付け薬として自分の水を与えたのがいけなかった。
「その優しさと悲しみは慈愛で…同族だけじゃくて、他の者達にも向けられている」
あの時起こしたリザードマンも、死の覚悟を決めていたのか、悟ったかのように穏やかに自分に礼を言いながら、優しい人だと言ってくれた……もちろん、その時には、目を覚まさせるだけに水を与えただけだと伝えたが、
「安請け合いをしないのは、面倒だからとかじゃなくて、お願いを果たしてあげたいからでしょ?最期に託される想いを、絶対に守り抜きたいって……」
あの時のリザードマンは、死ぬ前に自分との談笑をしたいと望み、全てを変えてしまった。
「でも、大丈夫……」
リザードマンの故郷を聞き、家族を聞き……それを聞いて、自分の立場を話、過去の思い出を話、
「今までして来た約束を、あなたは果たす事が出来ます……それは、決して罪を償うとかではなく、願いを果たす者として、運命を辿るんです」
話を、想いを重ねて、友となった時にお願いされた事……「他の者達の最期を、優しく看取って欲しい」その約束を果たし続けている。




