異世界のアフレクションネクロマンサー76
「大丈夫か?」
「少し…何があったのかを思い出してて……」
あの時、自分は手を離してしまった……離してしまったばっかりにセナルを……
「そうか…水を飲むかい?」
「……貰えるなら」
自分に声を掛けたエルフは、優しく気遣いながら水の入った水筒を渡してくれる。
渡された水は清らかで…乾いた口を喉を癒してくれる。
「ありがとうございます……」
敵対している自分になんて、泥水を渡したって文句など言う者なんて誰一人いないであろうに……清らかな水を飲ましてくれるというのは……
「……時間は、まだあるんですか?」
「……あぁ、その時間を決めるのは私だからな」
「そうですか…もう少しだけ……思い出させて下さい」
静かに、残り少ない時間で、あの時の事を思い出す……
(セナル!?セナル!!)
その時の自分は、もうどうでも良かった。
他の部隊に、作戦がバレてしまっている事を伝えるよりも、連れ去られたセナルを探す。
殺し合いが嫌いだったセナルは、平和な世界で誰もが……リザードマンだからと、エルフだからと生まれで憎しみ合う事無く、生きていける世界を望んでいた。
その優しい願いは、戦争の話を聞かされ、エルフを討つ事を子守歌のように飽きるまで聞かされていた自分には、心地良い歌だった。
(出て来いよ!!相手してやる!!)
自分は悩まないように、苦しまないように……
(どうした!?姿を隠さなきゃ怖くて戦えないか!?)
セナルの心を削って……
(来いよ!!ぶっ殺してやる!!)
自分の心の平穏を手に入れていた。
セナルに寄り添うフリをして、苦悩を肩代わりさせて……
(このクズが!!この卑怯者が!!)
見えない敵に叫んでいるようであったが、本当は自分に向かって叫んでいた。
死ぬべきは自分だった……自分を見失わずに、自分の中の心と向き合っていたセナルを最後の最期まで利用して生き残った自分は……
(恥を知れ!!)
恥知らずであった。




