異世界のアフレクションネクロマンサー56
それは、決して成金趣味ではない。
資材を選りすぐり、空間と色調を上手く使い、自分達の美的センスと文化を融合させた芸術品。
建物を芸術品にし、そこに混ざるセンスによって、自分達がどんな人物かというのを示している。
礼人は、まるで美術館に迷い込んでしまったかのような、美しく素晴らしい場所に、
(この先にいるのは、どんな人なんだ……)
こんな荘厳な建物を造らせるような人物が、愚か者である訳が無いと、この先にいるのは知識人だと確信する。
少しの嫌味も、雑念も無い…美しく気高い場所を城とする人物……この先で、どんな人が待っているのかと、期待ではなく胸騒ぎがする。
そう、胸騒ぎ……
これだけの国を、文化を誇りながら、街の方に技術を降ろさないのは見栄ではなく、知識人が意図的に貧富を生み出している可能性が高い。
知識を、文化を持つ事は罪だと……余計な事を考えずに従い、服従する事が幸せだと……意図的に文明レベルを、二世代も違うレベルにして……
礼人は、その元凶ともいえる人物に、これから会うという緊張感から自分の胸元を強く握る。
(アフレクションネクロマンサー様?)
そんな緊張に負けないように、強く胸元を握る礼人を、隣を歩いていたリーフが見ていた。
その姿は、戦場で恐怖に負けないように、自分の胸に手を当てている姿で……ここに来て、初めてリーフは、礼人が苦しんでいるのに気付くが、
(何を…そんなに恐れているの……)
本国の人間に、飼いならされているリーフには、目の前の現実を認識出来ずに困惑する事しか出来ない。
案内人に連れられていては、声を掛ける事は許されず、心配しながら横目に見る事しか出来ない。
「どうぞ。こちらのお部屋になります」
そのまま、何一つ声を掛ける事が出来ずに、案内人に通された先にあったのは、べっ甲色の重厚なドアで閉ざされた部屋。
案内人が、扉の前で直立不動の姿勢になってから、右腕を上げ、
『コンッコンッ』
「うむ」
ノックをすると、年相応の重い声が重厚なドアを越えて聞こえる。
「フレン様達を、お連れしました」
「通したまえ」
重厚なドアの先にいる人物は、突然のノックでも慌てる事も無く、落ち着き払い、フレン達を招き入れるのであった。




