異世界のアフレクションネクロマンサー49
リーフは久しぶりに乗る、車の快適さを味わうかのように、お尻を少し浮かせて位置を微調整して、一番良い所に持ってこようとする。
もちろん、それはリーフなりに場の空気を和ませようと、ちょっとしたお茶目なのだが、
「そうですね…車は凄い乗り物です……」
「ですよね……」
礼人の、乗る前のはしゃっぎぷりは影を潜め、車に乗ったら少しは元気を取り戻すかと思ったが、礼人の態度に元気は無く、フレンに叱られないようにしているのか、リーフの慰めに静かに応えるだけであった。
(……余程こたえたのかしら)
礼人の事を、こんなにも気落ちさせてしまった、お父様の方を遠慮がちに見てみると、先程の事が余程腹に来ているのか、父は腕を組んで静かに車に揺られている。
フレンは一言も発さず、車の床をうつむき睨んでいた目を少しだけ上げて、礼人の方に向け、
(それほどまでにか……)
さっきの、礼人の慌てふためく様を思い出す。
今、フレンの機嫌が悪いのは間違い無いが、それは本国の者であるエルフの前で醜態を晒したからではない。
あの一瞬だが、礼人の瞳は自分の方に向き、この「車」という物が、自分との約束事……「聡い所を」見せないという約束を一瞬忘れさせてしまう程に「これは良くない物…あってはならない物」だと訴え掛けてくれた。
だが、その代わりに驚愕してしまったからこそ、引っ込みがつかなくなってしまい、騒ぐという演技をしなければならなくなってしまったというのは、その一瞬の動作から把握する事が出来た。
だから、自分で抜いてしまった剣を矛に収める事の出来ない礼人を、フレンは怒る事で、何とか剣を矛に収めさせたのだ。
礼人に向けた視線を外に向けるようして、自分が映る憎たらしい窓ガラスを見ると、そこには眉間にシワを寄せて、不機嫌にしている自分がいる。
前々から、この車という物が籠と比べて異質な物なのではと思っていたが、それと同時に、ただただ、オークの引っ張る籠に乗りたくないという見下しが産んだ産物なのだろうとも思っていた。
この異質な存在を感じ取っていながら、ただの見下しの象徴としか思っていなかったのは、
(奴隷根性のせいか……)
どこか心の中で、また、こんな贅沢な物を作ってと、深く考えようとしていなかったからだろう。
そうやって、気に留めよとして来なかった物が、アフレクションネクロマンサー様の様子から、決して放置してはいけない物だったという事を、叱責されてしまい、
(我々は…相当、悪い立場にいるのかもしれないな……)
たった一つの存在が、凶兆を知らせる存在だったのかと思うと、一秒でも早くこの車という物を壊したくなってしまうが、そんな事を出来る訳も無かった。




