異世界のアフレクションネクロマンサー40
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静かな朝。
まだ朝日は昇っていないが、うっすらと染まる青い世界は、まるで海の底に沈んだ遺跡のように美しく、眠りの底に落ちている。
静かで穏やかな時に抱かれて皆が皆、寝息を立てて眠る世界。
この静かな一時も、一刻二刻と時が経てば、朝日に照らされて明るくなり、みんな目を覚まして活発に動き始めるのだろうが、
「後は頼むぞ、ベルガ」
「任せておけ、オヤジもいる」
みんなが静かに眠りの世界に旅立っている中で、街から少し離れた森の中で街の主達と、籠運びの数人のオークが現実の世界で活動している。
それは街の主であるフレンが本国へと赴き、ベルガが代わりに街を守る日。
静かに眠っているみんなを起こさないように、盛大な見送りなど無く、
「すぐに帰れると良いな」
「小言を言われるだけで済むことを祈るよ」
フレンとベルガは小さな声で、短く見送りの言葉を交わす。
「失礼致します。籠の用意が出来ております」
籠運びのオークの頭が、二人が別れの挨拶を済ませたのを確認し、出発の時を伝え、
「分かった……二人も良いな」
「「はい」」
フレンとリーフが返事をする。
「こちらへ」
籠運びの頭は、一礼してから三人を籠の中に案内し、
「頼むぞ、みんな」
「はい。全員向かうぞ!!」
「「おう!!」」
ベルガの言葉に応えて、八人のオーク達のうち、四人のオークが籠の引手に手を掛けて前に進み、残りのオーク達は後ろから付いて行く。
車輪が大地を軽快に『ガラガラ』と音を立てると、籠はみるみるうちに遠くなる。
「フレン…お前と一緒にいけない事を許してくれ」
ベルガは、貴族から嫌味を言われないで済み街に残れることの罪悪感と、本国へと一緒に行けない自分の身を悔しく思うが、
「仕方無い事だ。それにフレンとリーフ、アフレクションネクロマンサー様なら上手くやってくれるさ。フレンがいない間は、我々がしっかりと街を守らなきゃいかんぞ!!」
ビレーが、意気消沈している息子の背中を叩いて気を入れ直させ、
「……そうだよな。フレンがいない間は、俺が街を守らなきゃいけないんだよな」
遠くへと行って、見えなくなってしまった籠を未練がましく、いつまでも見送るのを止めて、フレンに任された、みんなの安息を守るために街へと戻っていく。




