夢の中57
最初から身構えていたお陰で、鋼鉄の巨人の動作が分かる。
実戦はしたことは無いが鍛錬はしてきた。
じいちゃんやアニーが叩き込んでくれた練習に、自分の中に贈られたものが混ざり合う。
(何とかなるはず……)
鋼鉄の巨人の手が上がると、それを支えるために鋼鉄の足が歩幅を緩まり、
「ごっぉぉぉぉぉ!!おぉ!?」
雄叫びとともに放とうとした剛腕が止まる。
詰め寄った距離も、放とうとした剛腕に溜めた力も何一つ申し分無かった……が止めざるをえなかった。
相手を粉砕するだけの力を込められた剛腕と言っても、相手が目の前にいなければ意味が無いのだから。
目の前から相手を見失ったが、代わりに目の前には光の球体が浮かんでいる。
これがなんのか___?
それを考えたほんの少しの間であった。
『ボッ!!』
光の球体が一際強く光り輝き、輝いた光がそのまま鋼鉄の巨人を包み込み、
「ぐおっ!!」
鋼鉄の巨人は体を焼く痛みを感じると
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
自分の体から悪霊の霧を噴出させて、輝く光を鎮火させる。
自分の事を焼く攻撃……それは先程自分を焼いた攻撃に酷似していたが、さっきそれをした老体は亡骸になっている。
ならば、自分を攻撃したのはあの男だ。
「はぁ…はぁ……」
息をする音が自分の耳に聞こえる。
心臓が早鐘となって体の内側を叩く。
(これで終わって……)
初めての戦いで、礼人の精神は一気に削られていた。
きっと何とかなる。
きっと大丈夫。
きっと上手くいく。
きっときっときっと……きっとの中には礼人の不安が渦巻く。
自信?そんなものはあるはずが無い。
振り上げられた剛腕が自分に向かうと思った瞬間、体が逃げたいと願った。
その体の願いと、頭の中で描いていた戦い方がマッチしてくれたお陰で礼人は生き延びることが出来た。
がむしゃらに立ち向かうではなく、冷静に戦うという選択肢を選んだからこそ、頭の中に恐怖が浮かぶ。
一刻も早く、辛酸を舐めずに終わらせたい……
そう思いながら、霊力の光に包まれた鋼鉄の巨人がそのまま朽ちてくれれば、全てが解決するのだが……
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!.」
輝く光が弾けて、内から黒い霧が溢れて鋼鉄の巨人が姿を現す。
そんなに甘い話は無く、鋼鉄の巨人が再び自分の方を向く。




