旅立ち339
右手に込めた力は繭を溶かし、右手は繭の奥まで進み、
(勝った!!)
赤い蜘蛛の糸が、繭と同化する前にアフレクションネクロマンサー様を連れ出す。
繭から解き放って、そのまま大地に降りる……翼が無くても、この身を挺して落ちればアフレクションネクロマンサー様は軽傷で済む。
(後は掴むだけ!!)
右手を握り締めて、アフレクションネクロマンサー様を…掴めない……
「つっ……!?」
握り損ねた。
もう一度、右手を開いて、
(ここにもいない……!?)
もう一度…もう一度、右手を開いて……
「どこにいるの!?」
人ひとりしかいられない場所なのに……
「溶けた……」
そうだ、あの時、繭の中に見えたアフレクションネクロマンサー様の姿は、どこかおかしかった。
繭の中に影のような上半身は人の姿で、下半身は真っ黒に塗り潰されていて……それは、そういう見え方をしたからではない、本当に溶けて形を変えていたから。
それは姿形を変えていく、蝶のように……
「どうしたら…良いの……」
この先は、何も分からない。
アフレクションネクロマンサー様なら、どうにかする術を知っているかもしれないが、そのどうにかをする術を知っている人がこれでは……
リーフは、繭の中の底にいる人を掴む術を知らない……どうしたら良いのか分からずに、繭の中で右手を伸ばして虚無を味わっていると、
「……なに?」
右手の人差し指の先に、何かの感触を感じた。




