旅立ち333
引き戸を開けて、教科書を手にすると、
(・・・・・・こういう物ばかりはあるんだよな)
教科書がキーとなって、少しの悲しみと憎しみが入り交じった感情が走るが、
(考えるな!!)
思い出した負の感情に、支配されてはいけない。
その事を嘆きたいなら、元の世界に戻って嘆けば良い。
無難な風景が描かれている、面白味のない表紙。
大人達が、子供に読ませるのが大好きな本を手にして引っくり返すと・・・・・・
「・・・あぁ、非情だな」
名前を書く所が、墨のようなモノでグチャグチャに潰されている。
無駄だと分かってても、グチャグチャに潰されている名前の欄に指を当てて、墨のようなものを拭ってみようとしたが、指先に墨が移ることは無かった。
死んだ人が息を吹き返して、生き返るのを奇跡と呼ぶ。
今、この話をするのは、死んだ人が生き返るのが、どれだけ奇跡的な事なのかを謳うためではない。
「・・・表札はどうだ!?」
生き返れない理由を問うためだ。
人影は部屋から飛び出し、階段を駆け下りると玄関を目指して、外に飛び出し・・・・・・
「くっ・・・」
家の壁に備え付けられている表札は、名前が分からないように砕かれている。




