夢の中53
二月は雪の上に腹ばいになり、芋虫のように這いつくばりながら礼人の方へと向かう。
それは外道と言うには余りにも生温い。
部隊の皆を救うためとはいえ、年端もいかない孫の未来を奪い、結果として自分が生き残る……
大人としてこれほど情けなく、最低なマネがあるだろうか?
ズルズルと雪の上に一本の道筋を作り、鋼鉄の巨人とアニーが言い争っているうちに何とか辿り着いた二月は、血で濡れている礼人の額に手を添えて撫で、
「……許しておくれ礼人」
躊躇うように小さく息を吐いた。
「「お前は我々の世界がどうなっているか知らないから……」」
「私はこの世界で生まれた世代なんですよ!?」
「「……ならば世代を受け継ぐ中で貴様は、この世界に使命を持って跳ばされた者達の想いも忘れたというのか?」」
「そんな訳無いでしょう!?だからこうして……」
鋼鉄の巨人とアニーの押し問答はどちらも一歩も引かない。
アニーとしても祖先の事を思えば、鋼鉄の巨人に協力しなければならないのだが、この世界、この時代に生きている者としては全部が全部同意出来るものではない。
「ならば、ここを後にして話を詰めれば良い!!」
「「それは、ここにいる者達を始末してからでも遅くはあるまい…我々を知る者がいれば、後が面倒になる……」」
「口封じなら私がやる!!」
「「ダメだ……」」
平行線を辿る議論。
鋼鉄の巨人を救うために、二月に深い傷を負わせてしまっている。
これ以上ここでの押し問答を続けては、二月が死んでしまう。
何とか平行線を越える手立てを考えながら……
「うっ…!?」
「「……!!」」
平行線を辿り、交えなかった二人が突然何かの気配を感じると同時に、まるで鏡合わせかのように振り向くと、
「…………………………」
怨霊の立ち込めるこの黒い霧の中で、一人静かに座り込んでいる者がいた。




