旅立ち328
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繭が静かに静かに『トクン・・・トクン・・・』っと脈を打つ。
さっきまでの荒ぶり猛っていた鼓動は、穏やかな波となっている。
「死ぬ所・・・だった・・・・・・」
死を覚悟していた訳ではないのに、死を受け入れざるを得ない状況で、意識が朦朧とする。
ほんの少しの時の中で、生と死の狭間を翻弄させれて、集中力が保てなくなって背中の翼がボロボロになってしまう。
何が起きたのか分からず、どうして生きているのか分からず、その「何が」を「どうして」を考える余力も無く。
(今・・・することは・・・・・・!!)
ボロボロになってしまった翼が、老いた鳥のようにボロボロになった翼が抜け落ちる前に、最後の一羽ばたきをして、
「届けぇ・・・!!」
最後の力を振り絞る為に、掠れた声を絞り出して、両の手を広げて繭に抱き付くと、体で静かな鼓動を感じる事が出来る。
波のような静かな鼓動・・・・・・それは、さっきの恐ろしい程までの、脈動を忘れさせくれるほどで、
(少しだけ・・・少しだけ休もう・・・・・・)
ほんの少しで良かった、ほんの少しだけ息を整えて、ほんの少し、物事を考えられるだけの余力を取り戻すことさえ出来れば、それで良かったのに、
『ぶち・・・ぶちぶち・・・・・・』
神は、その時間すら与えようとしなかった。




