夢の中52
動くことも無く倒れている老人。
既に戦いとしての雌雄は決してはいるが、命のやり取りと言う意味ではまだ終わっていない。
例え相手が身動き出来ない状態であろうと、命がある限りは終わらない。
完全に戦いを終わらせる為に、鋼鉄の巨人は老人の方へと足を一歩踏み出した瞬間、
「止めろ!!」
自分達の同胞である男が自分達の事を制止する。
「「なぜとめる?」」
鋼鉄の巨人の中にいる者達が一字一句違う事等無く聞く。
「あなた達にとってはただの敵かもしれませんが、私にとっては共に過ごした家族なんですよ!!」
「「……それが我々の使命を止める理由になるとでも?」」
「我々の使命と言うのなら、その男を殺そうが殺さなかろうが関係無いでしょう!!」
鋼鉄の巨人とアニーが怒鳴りあいながら会話をしている間、
(……アニーは強い子じゃのぉ)
二月は真っ暗な空を見ていた。
アニーの放った赤黒い矢は間違い無く二月の体を撃ち、怪我を負わせたが、
(まだ体が動くわい……)
まだ手足の足先がしっかりと動く…致命傷ではない。
もし、アニーが本当に洗脳されていたのなら、胴体ではなく脳天に撃ち込んで即死させていただろう。
体がなんとか動く…ただそれだけの状況でどうにか出来る事があるのかと言うと、
「……英雄様に習うとするかのぅ」
二月は最後の手段に心当たりがあるらしく、小さく呟いてからある方に目線を向けた。
今にも気を眠ってしまいそうに細めた目の先にあるのは、
「礼人……」
自分の孫である礼人であった。
迷っている暇は無い。
鋼鉄の巨人の唸り声とアニーの声が混ざり合っている間に辿り着かなければならない。
礼人の僅かばかりの血であれほどの力を手にすることが出来た……ならば、礼人を丸々触媒にして使えば?
答えなど一々言わなくても良い程に予想が付く。
礼人の霊力、生命力を全て手にすれば鋼鉄の巨人と互角に戦う力だけではない、アニーから受けた霊力の矢の傷すらも癒えるだろう。
しかし、それ程の事をするという事は礼人の死を意味する。




