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旅立ち306
それは走っている時に、石に足を引っ掻けて転んだ時のように景色が滑ったけど、次第に景色がゆっくりとなって、景色が止まった。
何が起きたのか、分からなかったが(に・・・げ・・・・・・)鬼に触れられたけど、捕まらなかった母は辛うじて生きていた。
生きてはいたが、母の声は今にもあの世に消え入りそうで・・・自分を強く抱き締めていた腕には力が抜けて、僕の体にのかっているだけ。
このままではいけないと、母を連れて逃げようと、力を無くした母の胸に手を回して、母を引き摺ってでもその場から逃げようとしたら、鬼が怒った。
大きな獣が唸り声を上げたかのように叫び、木々を壊しながら突き進むように、一直線に向かってくる。
鬼が生きていることを怒っている、生きて逃げようとしていることを怒っている。
怒りながら、僕達を捕まえようと迫ってくると、
(逃げなさい‼)
母は地面に横たわったままなのに、僕を強く突き飛ばすと、その場に顔を伏せて、
(ママ‼)
僕が駆け寄る前に、鬼の方が早く母に駆け寄って拳を上げて、母を捕まえた。




