夢の中5
血縁者とはいえ、霊能者では無い者に、妖怪や幽霊の存在を教えたばっかりに世間に流布されては困る。
身近に人を殺め、普通の人では対抗するのが難しい妖怪や幽霊がいるというのを口外されては、人はそれに怯えて暮らさなければならなくなってしまう。
その為にも幽霊や妖怪はフィクションであり、霊能者は血縁者、息子親兄弟と言えどこの事を話すことは決して許されない。
霊能者の家系に婿養子に、または嫁いだ相手だとしても霊力を知らないのは、こういう事情がる。
そして、これが礼人にとっての不運、親が霊や妖怪の存在を知らなくて、礼人の精神がおかしくなったと勘違いされたのだ。
さらに、もう一つの不幸。
もう一つというのは身内以外に発見して貰う方法で、霊能者というのは血筋だけでなく土地柄や、それこそ子供の時に霊に触れたことによって覚醒してしまう子もいる。
そういう子を見つけるために霊能者達は定期的に街や町に村を探索したりするのだが、霊能者の祖父である二月が、
「礼人は霊能者としての適齢期を超えてしまったから、もう霊能者になることは無いじゃろう」
そう言ってしまったが故に、霊能者の対象外として完全にはねられてしまう。
しかも、礼人みたいに妄想癖が酷い様なら普通の親ならカウンセラー等に連れて行き、そこでカウンセラーに扮する国家機関の人間が秘密裏に保護をするのだが、礼人の親は妄想癖があることを恥じて、そういう所には一切連れて行かずに表面だけを取り繕うような生活を与えていた。
この不幸が重なった結果、礼人は本来守って貰えるはずの親と仮面家族になり、本来見付けて貰うはずの祖父や霊能者からも見付けて貰えなかった。
そんな状況下でいつ、妖怪や幽霊に襲われるか分からない生活をしていた時であった。
祖母が亡くなったのである。
それは生きとし生けるもの全てが辿り着く事象、それは悲しいことでもあれば当たり前のこと。
祖母の葬式は身内と親しい者、そして祖父の仲間の霊能者達で厳かに行われていたが、
「礼人はどうしたんじゃ?」
その中に礼人の姿は無かった。
「あの子なら祖母が亡くなったショックで寝込んでるの……」
「そうか……」
本当は仮面家族との生活に嫌気が差していた礼人は、一緒に行く気が無かったのでどっかに出かけてしまっていただけなのだが、それを告げることなく対面を取り繕う。
こうして礼人がいない中、葬儀は執り行われて夜が更ける頃には明日を迎えるために各々の家に帰り、知らずとはいえ霊能者に関わった妻の遺体が、妖怪にかどわかされないように祖父と霊能者達は念のために葬儀場に残っていたが、
「二月様…この霊力は……」
この葬儀場に向かう霊力を感じ取っていた。