旅立ち272
それは、ほんの少しの間。
リーフが作ってくれた小さい時。
それは、少し息を整えて、
「みなさん…リーフの言葉は聞こえてましたよね……」
それは、少しだけ思考を巡らせ、
「私は、あの化け物を殺す為に、ここから離れます」
それは、少しだけ判断する時を与え、
「その間はみんなを助ける事は出来ません……その間に亡くなってしまった人に出来るのは……」
それは決意する時間を与えて、
「覚えている事だけです…一緒に戦ってくれた事を決して忘れてません」
彼をアフレクションネクロマンサーと導いてくれる。
地上にいるみんなにのを振り返ると、みんなが黙って頷いて、覚悟を決めてくれている。
一緒に戦ったという事実を決して忘れないという約束で、彼等は礼人がアフレクションネクロマンサーになる事を認めた。
アフレクションネクロマンサーは、地上にいるみんなの固い決意の表情を脳裏に焼き付けて静かに、上空に浮かぶ穢れたモノを睨み付ける。
上空でこちらを警戒しながら、目をギョロギョロと向ける出来損ないの人魚は、
『…………』
もう一人の親鳥が来た事、先程まで発狂していた親鳥が冷静さを取り戻したのが面白くないのか、礼人と同じように無言になって、ニッタリとしていた笑みがしぼんで、少しつまらなそうにしている。
「…………!?」
出来損ないの人魚が表情を変えた…その事で礼人はある事に気が付くと目を見開いて丸くしたが、先程までの発狂して瞳孔が開いていたのとは違う。
出来損ないの人魚のあることに気付いて、丸くなった瞳が段々と細くなり、
『ひゅるルぅる…………』
小さな小鳥の瞳は、出来損ないの人魚を怯ませるほどに鋭くなっていく。
細く細く絞られていく瞳は、発狂して飛び回っていた親鳥の面影を消し去り、獲物を狩る……いや、巣を襲うモノを殺す瞳になる。
一度、二度と羽を羽ばたかせて姿勢を整え、大地から穢れたマナを体内一杯に吸収し、衝撃波を出すのに力を使ってしまった右手の翡翠の剣に力を溜めていく。




