旅立ち262
怯え震える者を助けるのが、闇から這い出たモノを狩る霊能者の務め。
羽を強く羽ばたかせて、
「この化け物がぁぁぁぁぁぁ!!!!」
妖怪や悪霊と戦うスペシャリストの霊能者が、化け物と叫ぶ。
無意識で言ったのかもしれないが、それはすでに礼人の中で、この出来損ないの人魚が、自分ですら手に余る相手だと認識してしまったのかもしれない。
「逃げろ!!逃げろ!!」
「何なんだ!?あれは何なんだ!?」
人知を超えた存在、戦える相手ではない。
立ち向かうことは死に繋がる……いや、死そのもの。
死を具現化させた存在。
決して触れてはいけないモノが、こっちの意志に関係無く近付いて、こっちに触れてこようとする。
迫る死に触られないように、迫る死に攫われないように、必死になって逃げているが、
『ふうぅるㇽぅぅ』
耳元で鳴くような、薄ら笑いが聞こえる。
聞き間違いじゃない、耳から入った薄ら笑いが頭の中をくすぐり、
「はぁっ…はぁっ……」
脳と頭蓋骨の裏側をこそばゆく舐め回されて、喉が締め付けられて息が乱れ、目が鬱血するような張りを覚えて、涙が浮かんで体が重くなる。
まるで、水の中に落とされたかのように体の自由が効かなくなる。




