旅立ち259
折角、作り出した翡翠の剣も、突き立てる所が分からなければ無用の長物。
成す術の無い状況で出来る事と言えば、出来損ないの人魚を睨み付ける事だけ。
(くそっ!!急所さえ分かれば!!)
そうして、何も出来ないのは礼人だけ。
礼人が何も出来ない間は時間が止まってくれるなら、どれだけ喜ばしいことか。
ゲームのようにスタートボタンを押して時を止めて、ネットで攻略法を調べられるほど、現実はそんなに優しくない。
現実は着いて来れない者を平然と置いていき、
『ひょるぅルぅるㇽㇽ』
それが例え出来損ないで、不気味な存在でも、現実は進んで行くモノに味方して着いて行く。
出来損ないの人魚の時は進む。
相手の時が動かないのを、相手が太刀打ち出来ない事などに構う事は無い。
『ひょるぅんルぅるぅんㇽㇽ』
「みんな来るぞ!!」
両の手を大きく広げて、地上にいる生者に手を伸ばす。
それは母が赤子を抱き抱えるような優しいものではない、猿が地上で這う昆虫を捕まえようと、命を狩ろうと手を伸ばす。
身を固め合う小虫達。
体を寄せ合うのは自分達を捕食しようとする存在に、少しでも抵抗する為。
そんな涙ぐましい努力を見せられても、感じる事は美味しいエサがまとまっていると思うだけ。
捕食する為の手から更に指が伸びて、まとまっている獲物の中から、どれを食べるかを選びながら、ゆらゆらと指が揺れ落ちる。




