旅立ち257
それはもう、海の神秘、リュウグウノツカイではない。
それは出来損ないの人魚。
魚に手が付いた不格好な魚。
出来損ないの人魚が手を伸ばしながら、獲物を求めて迫って来る。
「相手をしてやる!!」
礼人は右手を下に降ろし、左手で右手首を握って、力を集中させると翡翠の剣を作り出す。
それは、礼人の出来る最大級の武器。
この翡翠の剣ならば、書物に出て来る名のある妖怪だって始末出来る。
出来損無いの人魚なんて、軽く斬る事が出来る。
礼人は自分達の方へと向かって来る、出来損ないの人魚に立ち向かう為に飛んで行き、
「全員構えろ!!」
出来損ないの人魚に立ち向かう礼人に感化されて、地上に残されたオーク達は逃げようとしないで、両手を構えて、出来損ないの人魚の襲来に備える。
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羽を震わせて、自ら出来損ないの人魚に向かうまでは良かったが、
「うっ!!」
黒い大きな鯉でも30m級だったのに、眼前に迫る出来損無いの人魚は300m級。
戦争をするために何百人の兵士を乗せて、突き進む戦艦と同等の大きさ。
それに対して、礼人は単独で水上バイク乗り込んだ兵士、その質量差はあまりにも大きく、質量差に負けて礼人が進路を譲るように避けるのは当たり前の話で、
『ひょるぅルぅるㇽㇽ』
出来損ないの人魚は、目の前の小虫が避けたの事に優越感を感じたのか、鳴き声を上げて、いやらしくニッタリと笑う。
「笑うな!!」
礼人が怒鳴ったのは、笑って馬鹿にされたからじゃない。
ニッタリと笑ったその笑顔が、生理的に受け付けないから。
一秒でも早く、この出来損ないを始末したい衝動に駆られているのに、
「くそっ!!くそっ!!」
人間の周りを飛び回る小虫のように成す術が無い。




