夢の中44
「ぐぅぅ……」
地に落ちた二月は小さく声を漏らす。
木々生い茂る中で空に上げられた体は……何一つ痛くなく、地に引きずり込まれた時も何一つ怪我をすることは無かった。
「おのれぇ……」
その身に何一つの怪我を負うことの無かった二月だが、低く声を絞り出す。
それは苦しみや恐怖を振り払おうとしているのでは無い。
抑えられない怒りが決壊寸前のダムのように溢れてくるからである。
二月が怒りに震える理由……それは礼人が理由。
礼人は結局、二月を見捨てて逃げることなく、鋼鉄の巨人から二月を庇ってそのまま空へと上がり、木々がまるで鞭のように体を叩くかと思えば、時には棍棒のように固い物が体を殴る……そんな状態で二月を守り通したのだ。
何が起きているかも理解出来ない恐怖と痛みに、耐えるに耐えて。
最後の最後で頭を太い幹に頭をぶつけた瞬間、肉が裂けて血を流しながら気を失ってしまった。
本来なら二月と礼人が半々に負うはずだった怪我、本当なら二月がかばって怪我を負い、礼人を逃がすような場面なのに、
「…………」
全ての痛み受けた礼人が、何一つ物言わぬ人形となっていた。
二月は礼人の頭から流れ出る血に触れて、一度大きく息を吸い、
「この場で貴様を消し去ってやるわ!!」
体の中に渦巻いていた怒りを躊躇無く言葉にして吐き出すと、手に染み付ていた怨霊が吹き飛び、二月の周囲に大きな羽を持った蝶が舞う。




