夢の中43
引きずり込まれる感覚が、地に向かって落ちていることを教えてくれるが、それでどうにかなる事は無い。
人が空を飛ぶのを夢見たのは何故か?
それは簡単な事、空を飛ぶための翼が無いからだ。
自由に空を飛べないから夢を見た。
もちろん、今では空を飛ぶ為の技術は確立されてはいるが、それは道具という技術があっての話であって、人間として能力の話ではない。
技術の翼を持たない人間が空に上がればどうなるか?
それはニュートンのリンゴのように地へと落ちるしかない。
下は雪だから落ちても大丈夫と思うかもしれないし、実際落ちても大丈夫だろうが、それよりも問題は、
『ゴッ!!』
「……っ!!」
ここが森林の中だということ。
細く柔らかい枝ならば大丈夫かもしれないが、太く固い枝にぶつかったのならば話は違う。
鋼鉄の巨人は何の躊躇いも無く、二月達を空へと飛ばした。
二人の体重を合わせれば100キロもあるであろう質量を簡単にだ。
例えばの話だが、ガラスで出来たラムネ瓶は固い。
軽く叩いたり、少し乱暴に扱っても壊れはしない。
しかしそれが強く叩けば?乱暴に扱えば?
答えは一つ、ラムネ瓶は簡単に壊れてしまう。
人の体がラムネ瓶と一緒じゃないのは分かっている。
肉と骨で構成された人体、固さと柔らかさを兼ね合わせた肉体とは違う。
「ぎっ……!!」
柔軟性を備えた肉は衝撃に強いかもしれないが、それは衝撃を完全に防ぐの物ではなく、
「ぅぐっ……」
ぶつかった勢いで皮膚は裂けて血が舞い、衝撃が体内に染み込むと骨が軋しんで内臓が震える、体が圧縮されるような感覚を感じる。
目に映る光景を脳が拾うが意識できない…いや……認識したくない……怖い……
今ここで起きている事自体が理解することも出来ないが、例え理解出来たとしてもどうにもならない……
戦いの恐怖に飲み込まれ、まともな思考が出来なくなった所に、
「げっ……!!」
頭に強い衝撃を受けると、それに耐えようとするのではなく、いとも簡単に気を失うことを選んでしまう。




