旅立ち228
リーフのお母さんは、最初からみんなを見捨てて逃げるか、ある程度の所で見切りを付けて逃げ出せば死なずに済んだのだろう。
だから、リーフはあの時、いざとなれば自分達も逃げ出すという発言に、否定的な態度を取らなかった。
自分のお母さんが、最後まで戦ったというのは娘として誇りかもしれないが、娘としてお母さんには逃げ出して、生き延びて欲しいかったという思いもあるのは間違い無い。
これまでの礼人の行いから、口では冷徹な判断を下しても、その時になれば我が身を犠牲にする事すら厭わないと思わせるには十分で……一度失ったかこそ、次は失いたくないという想いが強くなり、
「殿は私がやります。だから……」
「生き残りましょう」
リーフにその先を言わせなかった。
礼人にだって、戦場になればどうなるかなんて分からない。
あくまでも妖怪や悪霊を退治していただけで、戦争をしていた訳ではない。
妖怪や悪霊に襲われた人を、元気付ける為の言葉はずっと言って来たが、戦争という大きな局面では、軽々しく「みんなで生き残りましょう」なんて言えない。
戦争を経験したことが無い、自分に分かる事と言えば絶対に犠牲者が出るという事……
だから「生き残りましょう」なのだ、無責任に「みんなで生き残りましょう」という言葉を言いたくない、誰かを犠牲にして「自分達だけでも生き残りましょう」とも言いたくない。
「生き残りましょう…それが、みんなに与えられた平等な権利なのですから」
「はい」
生き残る、それは全ての生き物が平等に得られる権利、それを自分達も行使するだけ。




