夢の中42
土が混ざった雪が空を再び舞う。
鋼鉄の巨人が一足一足、足を動かすだけで汚れた雪が掻き分けられる。
一切衰えることの無い脚力で迫りくる。
圧倒的なまでの圧に対して、もう成す術はなかった。
だが、それはほんの少しのボタンの掛け違いのような話で、もし、アニーが謎の声に惑わされていなければ、光の矢を足に撃って鋼鉄の巨人はその場で転倒したであろう。
もし、礼人が二月に染み付いた悪霊を上手く払っていたならば、二月も二月で切り札を切ることが出来ただろう。
あの時、刀を引き抜いた時に悪霊が噴出して浴びせてくることが分かっていたのならば、それを避けていたのに……
ターニングポイントは確かに存在した。
今は成す術は無いが、その前には成す術はあったのだ。
後手に回ったとは言わない。
言うならば不運だった。
全てが悪い方向に転がってしまい。
「じいちゃん……!!」
「逃げるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悪い方向に転がった流れはそのまま加速して、
「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
二月と礼人も空に舞い上がる。
「れぃとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
脳が弄繰り回される中、アニーはそれを見た。
我々の鋼鉄の巨人が、仇なす者を空に吹き飛ばす。
あいては哀れにも皿の繋りがあるせいで、む捨てるこことがぁあ……
「ぎゃめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ16」
____
それは一瞬のうちに分からなくなった。
孫である礼人に連れられて雪の上をよろよろと歩いたが、あの大きな鋼鉄の巨人は雪と土をまき散らして突き進む。
このままでは礼人共々吹き飛ばされる……そう分かっていても、礼人は二月を見捨てようとせず、何とかこの場から離れようと必死に逃げる。
必死に逃げる…必死に逃げるがそれは牛歩のように遅く、迫る鋼鉄の巨人は荒れ狂う闘牛のように差し迫る。
尻尾を巻いて逃げる牛に、闘牛の猛りから逃れる術は無く、二月達と鋼鉄の巨人の距離は目に見える形で縮まり、
「ぐぅぅおおぉぉぉおおぉぉぉ!!!!」
二月達と鋼鉄の巨人が重なった瞬間、雄叫びが聞こえたのと同時に二月達は上空へと打ち上げられていた。
まるでスライドショーを見せられたかのよう。
木々が見える雪景色から一転、闇が見える。
大地から離れた浮遊感は一切無い、あるのは闇に吸い込まれる感覚。
天にも昇る気分とはこんなにも最悪なものだったと思い出す。
自分の身を自分で守れるようになり、敵を滅するようことが出来るようになった脂が乗った時に起きる事。
敵を舐めている訳ではないが、慢心というのは怖いものだった。
あの時も空に飛ばされながら吸い込まれる感覚を味わい。
(ぐっ……)
その後は、ほんの少しの時が止まる事無く大地に引っ張られる。




