夢の中39
鋼鉄の巨人にはさほどダメージが与えられていないのに、こちらには怪我人がいる。
この中で鋼鉄の巨人に対抗することが出来るのはアニーしかいない。
隊長である二月に変わったアニーが殿を務め、皆が逃げる時間を稼ぐしか……
「良いですか!?こういう時は恨みっこ無しです!!各自散開!!」
皆が逃げる時間を稼ぐこと無く、
「礼人!!二月さんを他の人に任せて私と下山しますよ!!」
唯一、礼人だけは自分の側に連れて逃げようとする。
アニーのこの判断、まるでダメな隊長、臆病風に吹かれた腰抜けのように思えるかもしれないが、これにもちゃんとした理由がある。
それはアニーがアメリカから派遣された神父であり、日本の霊能者とは畑違いなのであること。
彼はあくまでも日本における妖怪等を調査するためにここ、日本に来たのであって彼ら霊能者達を助けるためではない。
もちろん、アニーは長年彼らと同じ釜の飯を食い、同じ風呂に浸かった仲ではあるが、アニーは派遣されてきた牧師であり、逆に言えば派遣されたアニーを死なせて、二月を含む他の霊能者達が生き残れば、日本はアメリカから強い叱責を受けることになるのは目に見える。
アニーは目的が違う、立場が違う。
こんな言い方は酷だが、アニーが命懸けで戦うのではなく、隊長である二月が命を賭して部隊のみんなを守らなければならない。
それを一瞬とは言え隊長を務め、部下達がパニックになったり、怪我人が出たとはいえこれ以上の犠牲者を出さないように撤退命令を出す。
先ほどの無能のような行為も、こう考えれば責任を持たないアニーがどれほど有能な行いをしたというのか分かる。
やらなくていいことをやり、後は一目散に逃げる事を許されたアニーなのだが、
「礼人早くこちらに来なさい!!」
「でもっ……!!でもっ…じいちゃんが!!」
「じいちゃんではありません!!この部隊を預かる隊長です!.」
礼人だけは自分の手で連れて行こうとする。




