旅立ち171
だが、残念なことに憔悴し切っている礼人には、この炎を掻き消すだけの力を生み出す事は出来ず、出来る事と言えば、周囲に漂う肉の焼ける臭いを嗅ぎながら炎に焼かれないように避け……
「あっ……」
「どうなさいました。アフレクションネクロマンサー様?」
礼人は自分の鼻に漂ってくる肉の焼ける臭いに、炎の中にいるオーク達を助けないとっと思って立ち止まったが、
(……こういう事ばっかり分かるんだな)
炎の中で焼けているのは魂の抜けた肉であり、生きた者がいないのを分かってしまうと、
「……いえっ、なんでもありません」
炎の中で焼ける肉には一切の感情が湧かず、再び歩き出すのであった。
ヨタヨタとうなだれて歩く姿は、とてもじゃないが戦いに勝利した者達の行進とは言えない。
拠点の中から食料を奪って、みんなで意気揚々と逃げて来た時とは訳が違う。
何かを得たのではなく、死人を出しながら狙われた命を守り切っただけ……辛うじて生き残った者達による行進は敗北者の敗走に似ている。
ゆっくり…ゆっくりと炎から遠ざかり、燃える炎が遠くでろうそくのように小さく見える所まで来て、
「みんなここで休もう……この状況で敵が襲って来ないという事は、さっきのは、はぐれた部隊だったのだろう」
自分達が安全な場所まで逃げれたというのは憶測ではあり、もしかしたら自分達が力無く尻もちを付くのを待って、追って来ている可能性もあったが、
「はい……」
そんな異論を唱える者は一人でもいる訳も無く、全員が地面にへたり込んで息を吐く。




