旅立ち162
「……っ!?」
ルビーのように輝く鱗に礼人は息を飲むが、それは美しさに目を奪われたからではない。
ルビーに輝く鱗が礼人の目には、灼熱に燃える溶岩のように見えて怯んでしまった。
それは自分の雷の帆のように、マナを変換させて鱗を炎を変えて突撃して来ているのではと勘繰って、自分よりも遥かに優れた肉体を持つリザードマンが、自分と同じことをして来たのならば、肉体で勝るリザードマンに勝てる見込み等無い。
そんなことを考えてしまうと、背中の雷の帆を羽に形成するための集中力を切らしてしまい、
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
リザードマンの叫び声に、釘を刺されたかのように身動き一つ出来なくなってしまう。
自分の方へ迫りくるリザードマンは大地を踏みしめ、筋肉で膨れ上がった両の腕を広げて迫って来る。
貧弱な小さな人間の体は、灼熱に燃え上がりながら迫り来る巨大な肉体の圧に耐え切れない。
このまま襲われては、大人が子供を一方的に暴力を振るうように殺される。
幽霊や妖怪に対しては圧倒的な力の差でねじ伏せて来た事が逆転して、自分が圧倒的な力で殺されてしまう立場になってしまう。
じいちゃんとアニーから力を授かってから、助けるべき人を助けられるかというピンチはあったが、それはあくまでも他人のピンチであり、自分に対してのピンチでは無い。
一方的に殺されるというこの状況は、自分に対するピンチ。
このピンチに対して礼人は諦めたりはしていないのだが、
(どうする!?)
経験したことの無い危機に、礼人の思考は答えを出す事が出来ない。




