夢の中33
二月は鋼鉄の巨人が腕を振り上げているの視界に捉えてはいるものの、
「う…ぐっ……」
自分の体に浴びせられた怨霊の液体が粘り付くだけならまだしも、服に染み込んだ怨霊が皮膚に触れると火傷をしたかのように痛みが走る。
もちろん、二月もただやられているのではない。
怨霊の液体を浴びた時、咄嗟に霊力を高めて怨霊に備えたのだが、それでも想像以上に怨霊の液体は濃かった。
皮膚がただれるような痛み……
歴戦を生き抜いた二月ですら堪えるのがやっとで、腕が震える……
爪の間、指紋の隙間、1つ1つの毛穴に痛みが鮮明に、強烈に感じる……
怨霊の続く痛みが脳を襲う。
怨霊が蠢くせいで痛みに慣れることが出来ない、常に新鮮な痛みが走る。
「うぐっ……」
堪え切れない痛みに耐えるために、二月はくぐもった声を漏らしながらその場で震える。
逃げなければならいと頭が分かっていても、体が痛みで動くことを拒否をする。
身動き出来ずに、たじろぐ二月に鋼鉄の巨人が拳を振り下ろす準備を始めるが、
「「二月様!!」」
二月が身動き出来ないことに気付いた周りの者が、二月に習うように刀を鋼鉄の巨人に刺し込み、
「抜いてはいけませんよ!!」
皆が作った隙にアニーが二月に駆け寄って腹に腕を回すと、何の遠慮無く引きずって鋼鉄の巨人から離れる。
「二月さんも歳を取ったもんですね!?」
「年月は人を成長させて老いぼれにさせていくもんじゃろ?」
「礼人!!お仕事ですよ!!悪霊を拭ってあげて下さい!!」
「はっ…はい……」
「二月さんは負傷したので、これから私が指揮を執ります!!!!」
寄る年波には勝てぬとは言ったものだ……
アニーは二月の体を触った時、多少の肉が骨と皮で挟まれている頼り無い体を感じ、引きずった瞬間にまるで軽石を運ぶかのような軽さに驚愕しそうになってしまった。
それと同時に気付いてしまう……二月は霊能者として活動するには限界が来ているということを……




