夢の中30
震える叫びは周囲にいる者達を威圧する。
それは相手を脅す声ではない、圧倒的な力の差を告げる雄叫び。
鋼鉄の巨人は雄叫びを上げながら両の手を漆黒の空へと掲げ、
「避けるんじゃぁぁ!!!!!!」
『ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
二月の叫び声に、我に返った皆は脇目も触れずに雪の上に突っ伏すと、鋼鉄の巨人の両腕で空を殴る。
そこには技術も何もない、ただ力任せに腕を振るっただけなのに空が震える。
まるで鈍器が振り回されたかのような圧迫が腕を振っただけで起きる。
地面に伏せた者達は、この恐怖が夢であって欲しいと祈りながら雪の上に伏せ……
「早く起きなさい!!死にたいんですか!?」
そこには礼人を担いでいるアニーがいた。
鋼鉄の巨人が腕を振るった時、その腕の延長線には礼人の頭があった。
そのまま鋼鉄の巨人が腕を振り抜けば礼人の頭は砕けて赤い血の花びらが夜を舞い、地に咲く所であったが、アニーが誰よりも早く、自分の事よりも優先して礼人を庇った。
礼人と共に倒れたアニーは、
(本当に誰がこんなふざけた物を作ったんですかねぇ!!)
虫けらのように払われた自分に苛立ちを覚えながらも、成す術が無い事を理解して何か対抗する方法を思案しながら礼人を担いで立ち上がった先には、妖と戦う為に訓練してきた者達が怯えて地面に伏せていた。
気持ちは分かる…アニーだって対抗する術など、今この瞬間には何も持ち合わせていない……
けれど、このまま恐怖に負けて地面に伏せていれば、鋼鉄の巨人はモグラ叩きの要領で皆を叩き潰していくであろう。
戦う事は死を覚悟しなければならないであろうが、それでも生きる可能性はある。
恐くても、圧倒的な力の差を感じても立ち上がらなければ生き残れない。




