夢の中3
アニーは遊びの片手間に小さな弓矢を作ったようであったが、この小さな弓矢を作るのにも集中力と形を維持するだけの力が必要になる。
それを遊びの片手間に作れるアニーは俗な言い方だが、天才の類と言える。
「もう一回やります!!」
礼人はアニーの言葉に奮起して再び目を閉じ、手の平に集中しようとしたが、
「それはいけませんね、礼人」
アニーは礼人が再び霊力を形にするのを止めた。
「良いですか礼人、現在では現世に黒い海は溢れていないお陰で昭和のような妖怪ブームは起きていません。けれど、黒い海は現世に溢れていないだけでしっかりとあります」
「……はい」
「良い返事です。では、私が言いたいことの続きをどうぞ」
「……我々、霊能者は非常事態に備えて、その身を万全に期しておかなければなりませんが、今日は大晦日で霊験あらたかな日だから……」
「そうじゃ、霊験あらかたな、この日なら悪霊も出て来ないであろうから、我が孫がどれほど成長したのかを皆に見て貰おうと思って無理を許したということじゃな」
これが礼人がどうしても頑張らなければならない理由であった。
周りの人から認められれば妖怪や化け物と対峙する事になるのだが、先に述べた通り礼人はまだ中学生で体も霊力も未熟。
本来なら後方支援や雑務が仕事なのだが、このお座敷遊びで力を示すことが出来れば、今度の妖怪退治に一緒に連れて行って貰える約束をしていた。
しかし、その結果は言わずもがな、
「礼人の実力なら大学を卒業する年齢くらいの時には一端の霊能者になっているでしょうが、それまででも一緒に行けるチャンスはあるでしょうから頑張って下さいね」
「そういうことじゃな、もうしばらくは我慢をしなさい礼人」
「…………」
礼人は祖父の言葉とアニーの言葉に納得することは出来なくても、我慢をしないといけないのが分かっているらしく、黙ったまま俯いてしまう。
そんなしょんぼりとしている礼人に、
「礼人の年でこんなに霊力を扱えるのはそうはいないぞ」
「そろそろ年越しそばを食べる準備をするか!!」
周りの大人達は礼人を慰めるのであった。