旅立ち86
「おじい様……」
「うむ……」
リーフ達がドアを開け放つと、そこには大広間としての面影は無かった。
天井から横の壁の途中まで透明な膜で覆われ、その中は赤い液体が満たされているのが見えるのだが、
「黒い……」
壁際に置かれている、瓶の中には黒い液体が満たされている。
詳しい事は分からないが、透明な膜の中には細長い管が伸びていて、サイフォンの原理で、横の壁の膜の底に溜まった熟成した怨念だけを瓶の中に移しているのかもしれない。
ただでさえ、おぞましい赤いモノをよりおぞましいモノに変える……正気の沙汰とは思えない行いに、自分達が相手をしているのが本当に、同じエルフなのかと疑念が抱くが、
「アフレクションネクロマンサー様……」
自分の目の中に映った一人の少年が、抱いた疑念を消し去ってしまう。
絵本の中で見た不思議な服。
緑を基調とした服、規律を示すかのように立てられた襟元、ズボンも同じように緑を基調にしながら折り目がピシッとしている。
まるで式典に出る時のような折り目正しい服に息を飲み、もう一つのアフレクションネクロマンサー様の、最大の特徴、
「耳が……」
愚か者の声を聞かないために、みんなの嘆きの声をこれ以上聞きたくないと、その決意を表すために耳を削ぎ落した……目の前にいる少年は自ら切ったのか耳が丸くなっている。




