旅立ち76
(そういうことか……)
それは、生命の今際に立たされた者が助けを求めている。
どれだけ穢されてしまったのだろうか?
遠目から見ても、助けを求めている者の命が怨念に奪われてしまうのが分かる。
近付かなくても、このままでは体は形態を変えて人ならざるモノになってしまう。
苦しいだろう……命は震えながら自分を求めている。
ここで自分が助けてあげなければ、あの命は……
(私と一緒に来て!!)
「その子から離れろ!!」
命に憑りつき、体を奪おうとしていた怨念を追い払う為の強い言霊を発する。
礼人の発した言霊は、怨霊にとっては百獣の王である獅子が上げた咆哮。
圧倒的な強者による咆哮は、牙が相手の肉に喰らい付き、爪を振って血飛沫を上げる事は無い。
弱者は、強者が上げた咆哮だけで全てを理解する。
自分の体に爪が立てられたら皮膚が裂かれて血が飛び散り、体に喰い込まれた牙が肉を抉り取って自分が死んでいく姿を理解する。
礼人の「その子から離れろ!!」という言葉は、強者からの絶対的な命令。
抗えば容赦無く、力の差による手加減等一切しない、力の差のままに圧倒して潰すという強者に許された権限を執行するという宣言。




