旅立ち70
(……危なかった)
口の中に感じる不快感を理性で我慢して、濃くなった赤い怨念に合わせて、力をゆっくりと高める。
危うく怨念のサンゴ礁を消滅させて、次元の海を彷徨ってしまう所でも危なく、
(やっとここまで来たのに、全てを無かった事にする所だった)
ここまで何とかしのいで来た努力全てを、無にしてしまう危機でもあった。
何ら変わり映えの無い次元の海の中、どこまで行っても同じ景色が続く世界では、どこまで来れていて、後どの位なのか分からないと思っていたが、怨念が濃くなったという事は、怨念を供給している元に近付いているという事になり、
(異世界に近付いている!!)
怨念の元、それはリミィがやって来た世界。
自分にとっての、まだ見ぬ世界に間もなく着く事を教えてくれている。
濃くなっていく怨霊のサンゴ礁の中は、最初の時の流れる水に流される感覚から、液体ではあるのだがゼリーのような感触がする。
(これは確かに……生身の人間じゃあ来る事なんて出来ない)
流れる水の時は肌に触れる感触だけであったが、ゼリーになってからは密着して肌の内側に染み込もうとしているようで、
(黒い海に生身で入ったことが無ければ、どうなってたことやら……)
それは自分のいた世界の黒い海と酷似している。
周りの怨念が必死になって、自分に絡み付こうとしている。
(ここまで怨霊の濃度が濃くなれば、簡単には破けたりはしない)
このままでは怨霊に絡み付かれると、霊力を高めて背中に蝶の羽を生やし、怨霊のゼリーを溶かしながら突き進む。




