旅立ち61
正直に言えば、洞窟の中を通っている時には異変を感じていた。
誰かが闇の中にいて、ずっと見られている嫌な感覚。
それを気のせいと言うには、あまりにも生々しく……けれど、闇に溶けているそれを探す暇も無かった。
こちらから触らなければ、向こうも触って来ない。
そう思い込むことで平静さを装っていたが、あの部屋に入った時に見てしまう。
左右の壁に一つずつ、黒い液体で満たされたランタンのような物が、壁に備え付けられているのを。
それは鋼鉄の巨人を満たす赤い液体とは比較にならない程に黒く、人の意思の濃度が濃くて……
赤い液体が若々しく猛っているなら、黒い液体は光の届かない鬱蒼とした森の中のような不気味な静けさを持つ黒。
そんなモノが、壁に備え付けられていた。
それがただのオブジェクトとして飾られていたのなら、何ら問題無かったのだろうが、洞窟の中で自分達を見ていたのは間違い無くこれだった。
この黒いモノが詰まったランタンを闇に紛れ込ませて、侵入者を見張らせていたのだろう。
自分達がここにいるのは、もう敵に筒抜けで、急ぎながらも天井に視線を向けると、そこには黒いランタンが闇に隠れて吊るされている。
だから、リーフは諦めざるを得なかった。
本当にどうしようもない状況になってしまった……
この状況を見て見ぬふりをしてアフレクションネクロマンサー様を探しに行くより、ここで自分がアフレクションネクロマンサー様を諦めて、食料を奪う事だけに専念して逃げ出す方が、みんなが生きて帰れる確率は上がる。
リーフは諦めた。
アフレクションネクロマンサー様に会えるかどうか分からない賭けより、確実に食糧庫へ向かうという現実を選んだのだ。




